日中韓の過敏性腸症候群 有病率調査

アジア3カ国(日・中・韓)における過敏性腸症候群の有病率調査を実施

発表のポイント

  • これまで成人における世界の過敏性腸症候群有病率は約9%と報告されており、居住地域により有病率に差異があることが知られていたが、その詳細なデータは無かった。
  • 今回、アジア内で類似した特徴を持つ別々の小地域(東アジア3カ国)において、性・年齢について割当法を用いたサンプリングにより参加者を調整した上で、有病率の調査を行った。
  • 東アジアの過敏性腸症候群有病率が、世界の他のエリアでこれまで多く示されてきた「若年女性」で高いというエビデンスとは異なり、「壮年男性」で有病率が高いという結果となった。
概要

早稲田大学人間科学学術院田山 淳(たやま じゅん)教授と、九州大学大学院人間環境学研究院の木村 拓也(きむら たくや)教授、長崎大学保健センターの武岡 敦之(たけおか あつし)らの研究グループは、東アジアの3カ国(日本、中国、韓国)における過敏性腸症候群の有病率を調べた比較研究を行いました。その結果、全体13%、日本15%、中国6%、韓国16%となり、全体有病率は世界的な有病率よりもわずかに高く、日本や韓国よりも中国の有病率が低いということが分かりました。また、過敏性腸症候群サブタイプは、「交替型」がいずれの国でも割合が高いことが判明しました。

本研究成果は、Korean Society of Neurogastroenterology and Motilityが発行する『Journal of Neurogastroenterology and Motility』にて、2023年4月30日(日)に掲載されました。

過敏性腸症候群は、脳・腸・腸内細菌が相関し、ストレス・病気・行動・食事等の要因に加え、遺伝子変異・感染・腸内フローラ・免疫活性化等の生物学的要因が影響を与えていると考えられる。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

過敏性腸症候群は、脳―腸―腸内細菌相関の異常を背景とした腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘、心理的異常を伴う複合症状であり、クオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life:QOL)の大幅な低下を引き起こす。成人における世界の過敏性腸症候群有病率は約9%と報告されている。しかしながら、居住地域により有病率に差異があることが知られていた。居住地域により有病率に差異がある理由の1つは、参加者の性別、年齢の分布の関与である。これまでの多くの研究では、「女性」や「若年」において、過敏性腸症候群のリスクが高いことが示されている。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

アジアは多環境、多民族、多文化であるため、単一の存在として評価することはできない。したがって、アジア内で類似した特徴を持つ別々の小地域での過敏性腸症候群の調査が必要と考えられた。そのため、本研究では、東アジア3カ国(日本、韓国、中国)の都市を対象に、性・年齢について割当法を用いたサンプリングにより調整した上で過敏性腸症候群の有病率をインターネットで調査し、3カ国間の過敏性腸症候群の特徴を比較することを目的とした。結果として、過敏性腸症候群の有病率が、全体13%、日本15%、中国6%、韓国16%であることを明らかにした。さらに、全体有病率は世界的な有病率よりもわずかに高く、日本や韓国よりも、中国の有病率が低いということもわかった。

また、過敏性腸症候群サブタイプの交替型(下痢と便秘を繰り返す型)がいずれの国でも割合が高く、2番目に多いサブタイプは、日本では下痢型、中国では便秘型、韓国では分類不能型(下痢型、便秘型、交替型のどれにも属さない型)であった。性差について、過敏性腸症候群の有病率と過敏性腸症候群-下痢型の有病率は、先行研究とは異なり、「男性」で高いことが示された。さらに年齢に関しても、先行研究と異なり過敏性腸症候群の有病率は「40歳代」が最も高かった。

D-IBS(下痢型)、C-IBS(便秘型)、M-IBS(交替型)、U-IBS(分類不能型)

(3)研究の波及効果や社会的影響

東アジアという文化圏において、多様な食文化及び行動様式の差異が有病率の差異を生じさせている可能性がある。東アジアの過敏性腸症候群有病率が、世界の他のエリアでこれまで多く示されてきた「若年・女性」で高いというエビデンスとは異なり、「壮年・男性」で有病率が高いという結果になっている点は注目に値する。このエビデンスは、今後の疫学研究の対象選定等に影響を及ぼす可能性や、日常的な過敏性腸症候群診療などの参考になると思われる。

(4)今後の課題

過敏性腸症候群の有病率の地域的不均質性の要因を解明するためには、さらなる研究が必要である。特に、ストレス・病気・行動・食事等の要因に加えて、遺伝子変異・感染・腸内フローラ・免疫活性化等の生物学的要因が有病率に与える影響についての研究が必要である。

(5)研究者からのコメント

これまで過敏性腸症候群の主な原因として、「ストレス」の関与が示唆されていたものの、近年、各国の消化器学会等は過敏性腸症候群の主因が、「腸内フローラの変異」であることを発表している。今回の研究は、腸内細菌と有病率の関係を論じるものではなかったが、消化器症状、食事、運動、心理の変化と腸内細菌の変化が関与していることは既に知られている。消化器症状、食、運動、心理と腸内細菌の関連をひもとくことが過敏性腸症候群の症状マネジメントに寄与するはずである。

(6)論文情報

雑誌名:Journal of Neurogastroenterology and Motility
論文名:Prevalence of irritable bowel syndrome in Japan, China, and South Korea: an international cross-sectional study
執筆者名(所属機関名):
武岡 敦之(長崎大学保健センター、武岡病院)
木村 拓也(九州大学大学院人間環境学研究院)
原 真太郎(京都橘大学健康科学部心理学科)
濱口 豊太(埼玉県立大学保健医療福祉学部)
福土 審(東北大学医学系研究科障害科学専攻、東北大学脳科学センター)
田山 淳(早稲田大学人間科学学術院)
掲載日時:2023年4月30日(日)
掲載URL:https://doi.org/10.5056/jnm22037
DOI:10.5056/jnm22037

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